今回は、『データが語るおいしい野菜の健康力』(著:及川紀久雄、丹羽真澄、霜多増雄、出版:丸善出版)を要約します。
この本は、こんな方にオススメです。
- 野菜の持つ栄養について、勉強したい方
- 家族の健康を、食事で支えたいと考えている方
- 良い野菜の選び方を知りたい方
本書の特徴
本書はタイトルの通り、感覚ではなくきちんとした実験(=科学)に基づいて、野菜の”健康力”を測定し、どのような野菜を選ぶべきか、ということを教えてくれます。
どの野菜がどのような栄養素を持っているのか、どのような栄養素がどんな働きをするのかなど、非常に有益な情報が多く載っていました。
多くの測定結果のグラフも掲載されていますが、読み方が難しければ、文章でも補足してくれていますので、そちらをお読みいただくと良いかもしれません。
また、本書の1番の主張は「土作りをきちんとしよう、土作りをしている農家の野菜を選ぼう」ということだと思います。
化学肥料を使用する場合でも、土をおろそかにして肥料をバンバン使うのはもってのほかですし、有機肥料であったとしても、完熟が不十分なままでは意味がない、と主張しています。
これらが原因で、”美味しくない野菜”が作られる、という話は、非常に勉強になりました。
オススメポイント①:健康に良いおいしい野菜とはどんなもの
本書では、健康に良い野菜の定義を「硝酸濃度が低く、おいしい」ことを第一条件としています。
硝酸濃度が高い野菜は美味しさがなく、食感が悪く、味気なさを感じ、糖度も低いそうです。
硝酸(硝酸態窒素などとも言われます)については、本書内でその影響について詳しく書かれていますが、ざっくり言うと人体に良い影響をもたらすものではありません。
一方の健康な野菜には、ビタミンCやポリフェノールやカロテンなどの多くの抗酸化成分などが含まれていると言います。
健康な作物は、健康な土壌からしっかりとミネラルを吸収し、それを食べる私たちに供給してくれます。
また、糖度が高い野菜は硝酸濃度が低く、抗酸化作用などの機能性成分が多く入っているそうです。
同じく大事なポイントとして、“残留農薬”や”病原性細菌”が検出されないということも大事だと記載されています。
つまり、健康な土壌とは「アンモニアが検出されないこと」、「病原性細菌が検出されないこと」が重要だそうです。
野菜を買う時は、その野菜が健康な土壌で育っているかどうかが分かるようになるといいですよね。
もっと”どんな作られ方をしたのか”という情報が、消費者にも判りやすくなるといいのですが。
オススメポイント②:健康に良い野菜は硝酸濃度が少なく抗酸化力が高い
この節では、キャベツやほうれん草を用いて月ごとの抗酸化力や硝酸濃度、糖度などのデータを測定し、健康に良い野菜とは何かを教えてくれています。
“硝酸イオンが高いと美味しくない”という話は、本書のこれまでの話の中で何度も出てきています。
それを踏まえて、抗酸化力や糖度などの他の測定値と比較すると、硝酸イオンの数値は見事に真逆の動きになっています。
つまり、硝酸濃度が高い(=美味しくない)時期は栄養素が低く、硝酸濃度が低い(=美味しい)時期は栄養素が高い、というデータが出ているのです。
驚きの結果ですね。
このデータを見て僕が思うことは、
一年中好きな野菜が食べられることはそれはそれで良いこと。
しかし、本来野菜とは実をつける時期(=旬)が決まっており、それを人間の都合であまり歪めるのも良くない。
ということでした。
つまり、便利さを追求しすぎると、別の面では不都合なことが生じる、というよい事例なのではないかと感じました。
オススメポイント③:土壌の微量ミネラルの欠乏
この節は、野菜の栄養素について、少し突っ込んだ話が出てきます。
“野菜の栄養素”と言うと、人間に関係があるものばかりイメージされますが、野菜も生き物ですので栄養がなければ生長しません。
一般的な農家の間で言われるのは窒素・リン(酸)・カリ(ウム)です。
しかし、これ以外にも少しだけ必要な栄養素が存在する、とこの節では教えてくれています。
そもそも、作物の生長に必要な元素は16もあり、そのうち炭素、水素、酸素は空気や水から取り込むことができるので、その他の13の元素をどう補充するか、ということが、農業の1番の取り組むポイントとなります。
- 必須”多量”元素
- 炭素、酸素、水素
- →特別に与えなくても、空気や水から吸収可能
- 窒素、リン、カリウム
- →化学肥料などで主に供給される
- マグネシウム
- カルシウム
- 硫黄
- 炭素、酸素、水素
- 必須”微量”元素
- 鉄
- 塩素
- ホウ素
- 銅
- マンガン
- 亜鉛
- モリブデン
このようなミネラルが不足すると、農作物はきちんと生長できなくなります。
例えば、亜鉛が欠乏すると、タンパク質の合成に影響します。
農作物の葉や茎の伸長を促進する働きをするのですが、亜鉛が欠乏すると葉や茎が生長できなくなり、先端部が萎縮したり、枯れるなどの現象が起こるそうです。
また、作物の生育期によっては、ここに挙げられている以外のニッケル、ヨウ素、コバルト、バナジウムなども、極微量ではありますが重要になります。
これは野菜に限った話ではなく、人間にとってもこのような”栄養素”は重要ですので、その観点では自分の健康を考える上でも非常に参考になりました。
もう1点、この節が特に有用なのは、化学肥料によって「窒素・リン酸・カリ」だけを補充されて育った野菜には、今回挙げたような微量元素が不足しがちであり、一方で健康な土壌で育った野菜であれば、野菜を通じて僕らの身体に微量元素を摂取できる、と明らかにしてくれている点です。
つまり、「どの野菜も同じ」ではなく、野菜によって明らかに「違いがある」ということです。
ポイント②で取り上げた節の部分でも書きましたが、人間の胃袋を満たすためだけの大量生産品では、どこかに不都合が生じるかもしれません。
市場に出ている数は少ないですが、良質な野菜を摂ることが、健康でいるための本当に大事なTipsなのではないでしょうか。
まとめ
本書は、単純な野菜のデータの紹介だけでなく、栄養素に関する有益な情報や、化学肥料で大量生産されたものではなく、「土作り」から意識して作られた野菜の重要さを教えてくれる1冊でした。
本書を手に取ると、おいしい野菜とは何を指すのか、おいしい野菜を食べた方が良い理由などが分かると思います。
消費者としては、理想は農家さんの「作っている過程」まできちんと分かると、心の底から安心できますよね。
どのような仕組みにすれば、農家さんのこだわりがもっと消費者に伝わるようになるのか、なんてことを考えるきっかけになりました。
何かの味付けをして味をごまかさなければいけないような野菜は、本当においしいと言えるでしょうか?
ぜひ、「何もかけなくてもおいしい」野菜を、あなたも体験してみてください。
きっと、僕みたいにいわゆる”オーガニック”に目覚めると思います。(笑)
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