今回は、オーガニック界隈ではかなり有名で、内容自体もとても面白くて農業についての学びが多い、「奇跡のリンゴ〜「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録」(著:石川拓治、出版:幻冬舎)を要約したいと思います。
この本は、自然栽培や無農薬無肥料栽培のリアルを少しでも身近に感じる上で、とても参考になる1冊です。
リンゴ栽培とは?というなんとなくのイメージや、農業に携わる方の想いや考え、また【周りと違う事をする時に起こる苦悩やそれに対する周りの人々の反応】など、食べるものへの理解を深めると同時に、自分も周りと違う事をしようと思った時の参考書ともなるだろうと感じました。
↓書籍についてはこちら。
※なお、この記事ではかいつまんでご紹介しているがゆえに、一部事実関係の補足が足りない部分がございます。詳細については、ぜひ書籍を読んでみてください。
では早速いきましょう!
本書の構成
本書の構成は以下のような形になっています。
- まえがき
- NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」ディレクター 柴田周平
- 奇跡のリンゴ
- 内容(24章+エピローグ)
- 木の上に広がる青空
- 脳科学者 茂木健一郎(仕事の流儀 番組キャスター)
- あとがき
内容については、前半、後半などで分かれている訳ではありません。が、僕が分類するのであれば、以下のような流れになっています。
- 1~4
- 始まり
- 現在の取材シーン〜木村さんの生い立ち、農業との携わり
- 5~6
- きっかけ
- なぜ木村さんが無農薬でリンゴを栽培しようと思ったか?
- 7~17
- 試行錯誤
- リンゴを無農薬無肥料で栽培する事の難しさ、苦悩、当時の家族の状況
- 18~19
- 転機
- リンゴの無農薬栽培に活路を見出したシーン
- 20~24
- 栽培〜販売
- 無農薬栽培が軌道に乗り出し、リンゴがなった後の販売などの苦労
僕が思うに、特に参考になるチャプターがいくつかありますので、ピックアップして概要をご紹介します。
木村秋則という男
その前に、そもそも木村さんがとんな方か、という事を簡単にご紹介します。
木村さんの最大の功績は、上記で何度もお話ししていますが【不可能だと言われていたリンゴ🍎で無農薬、無肥料栽培を成し遂げた方】です。
木村さんは1949年に青森県中津軽郡岩木町で生まれ、農家の次男だそうです。
幼い頃から祖父に”勉強は道楽だ”という【農家的思想】を伝えられてきたそうなのですが、木村さんご自身は勉強も出来た、という事で、これが後々の試行錯誤のための思考の元になっているのかもしれませんね。(そもそも、木村さんが本を読むのが苦手であれば、自然農法とは出会っていなかったかもしれず、無農薬のリンゴは未だに実現していないかもしれませんね。)
また、機械いじりが大好きで、原付のエンジンなども自分で直してしまえたり、農業を本格的に行う前に都会に出ていたときには、バイクショップに通い詰めだったそうです。
この機械いじりと、ご結婚をして婿養子になった事が、木村さんを農業に駆り立てて行ったのでした。
なぜリンゴを無農薬で栽培しようと思ったか?
木村さんがリンゴを無農薬で栽培しようと思われたのきっかけは、奥さんのご体調を気遣われてのことでした。
リンゴは本来、相当の量を農薬を散布しないと、虫や病気に負けてしまうのだそうで、その農薬散布のためのカレンダー(防除暦)を参考に、木村さんも元々はせっせと農薬を散布していたそうです。
ただ、その作業に奥様も協力されていたそうなのですが、奥様が農薬に過敏な体質で、散布するたびに1週間ほども寝込んでしまうほどの状況だったとか。
当時(昭和時代)は今ほど、農薬を始めとした”薬物”などに対する規制や危機意識も薄く、今では規制されている農薬でもガンガン使われていたそうです。(余談ですが、疾患の治療薬とも似た部分がありますね。)
そのような状況をどうにか回避したくてトウモロコシの栽培も並行してされていたのですが、冬はトウモロコシがならず閑散期となってしまうため、冬の時期には農業の勉強をされていました。
そのある時、本屋を巡っていた際に出会ったのが福岡正信さんの『自然農法』という本でした。
※木村さんが読まれたのは、上記のものではなく初版のものかと思われますが、ご参考までに。
何もやらない、農薬も肥料も何も使わない農業
自然農法
という文言に惹かれ、その本を読み進めていったのです。
そして、読み進めるにつれて、「農薬を使うのが当たり前だと思われているリンゴでは、本当に無農薬栽培ができないのか?」という疑問と、「自分になら出来るかもしれない」という”根拠のない”自信が湧き上がってきたそうです。
こうして、リンゴを無農薬で栽培する、という途方も無いチャレンジが始まっていったのでした。
壁を越える
次にご紹介したいのは、木村さんが閉塞感を感じていた状況を突破して新しい道筋を発見した時のエピソードです。
(僕はここをこの本最大のヤマ場だと思っていて、これは実際に読んでいただきたい。これを紹介してよいものか悩みましたが、このシーンに惹かれて1人でも木村さんの事を知って頂ける方が増えたら、と思い、紹介させて頂きます。)
このシーンに至るまで、木村さんのリンゴ栽培の打ち手はことごとく効果をなさないものになっていました。
木村さんの畑のリンゴの樹は枯れ、葉も落ち、病気と害虫に食い荒らされる有様は、近隣の農家さんですら、目を背けたくなるほどの光景だったそうです。
それまで、木村さんは思いつく限りのありとあらゆる対応策を講じてきたのですが、全くと言っていいほど効果がなく。近所の方も木村さんを避けるような状態だったり、生活費すら足りなくなっている悲惨な状況だったとのこと。
気づけば、ある日の深夜に木村さんは、リンゴを出荷するためのロープを手に持ち岩木山に入っていたのでした。
もちろん、それは自分でこの”辛い生活”を終わりにするため。
深夜に2時間くらい歩いたところで、適当な樹にロープをかけようとロープを投げた時、たまたまあらぬ方向に飛んでいってしまいました。
そのロープを拾いに行くと、そこには【のびのびと枝を伸ばし、葉を茂らせたリンゴの樹】があったのです。
いや、それはリンゴではなく本当はドングリだったのですが、少なくともその時の木村さんの目にはリンゴに見え、そしてとても重要で大切で、しかし当たり前の事に気づいたのです。
なぜ農薬をかけていないのに、この木はこんなに葉をつけているのか
この木だけではなく、森の木々、自然の植物が農薬の助けなど借りずに育つことをなぜ不思議に思わなかったのか
山にも虫はいるし、病気もあるはずだ。生える場所という条件は、ふもとにある自分のリンゴ畑とほぼ変わらない。
ただ、決定的に違うことがひとつあった。雑草が生え放題で、地面は足が沈むくらいふかふかだった。土が全くの別物だったのだ。
奇跡のリンゴ〜「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録 P158
この木を見て、木村さんは、「今まで地上の葉の事しか気にかけておらず、リンゴが養分を得るための根っこ、そして土の状態に全く気を使ってこなかった」ということに気がついたのでした。
リンゴは【リンゴだけ】で自然界に存在している訳ではなく、空気や土の養分、微生物などとも絶妙に絡まり合いながら生きている。農薬を与えるということは、その”自然”から切り離すこと。しかし、農薬を使わないチャレンジをしてきた自分も、やろうとしてきた事は結局、リンゴを”自然”から切り離してしまっていたので、リンゴが弱ってしまったのだ。
この事に気づいた木村さんは登ってきた時とは全く違う気持ちで、山を駆け下り、畑に向かうのでした。
まとめ
ここでは前後の文脈をあまり補足せずにシーンを取り上げてしまったため、ぜひ実際に本を取っていただき、きちんとしたストーリーの中でお読み頂けると、この臨場感や熱量が伝わるのではないかな、と思います。
僕がこの本を読んで得た学びとしては【人間も自然の一部であり、極端に自然から離れすぎる、”不自然”な事をすると、きっと反動があるのではないか】ということでした。
ただ、僕がこの本を紹介したかった1番の理由は、
これだけの想いをもって食べ物を作っている人がいる
という事を、1人でも多くの方に知ってもらえたら、と考えたからです。
これだけの想いが込められた食べ物と、儲けのために大量生産された食べ物や、工場で人工的に作られた食べ物。
あまりオカルトに寄りすぎるのは好きではないのですが、口に入れるものが自分の身体を支えてくれるとしたら、どちらの方が自分の力になってくれるでしょうか?
栄養バランスが良いだとか、お腹がいっぱいになればいい、という観点だけで、自分の身体を健康に保ってくれるでしょうか。
ぜひ、自分が食べるものが【どうやって作られたのか】という事も、少し考えてみてください。
僕達は、食べるものに生かされている。
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